高嶺の花

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「達人シリーズの第3回はテレビの達人。テレビ雑誌コレクターとして世界一のコレクションを誇る三崎次郎さんのお宅に伺いました」
 女子アナが流暢に喋り、インタビューを始めた。
「それにしても、すごい本棚ですね」
「世界中からテレビ雑誌が届くからね。定期購読しているものだけで1000誌は超えるよ」
「毎月ですか」
「週刊もあるから、月に何冊増えるのかよくわからない」
「どうしてテレビ雑誌を集めるようになったのでしょう」
「そりゃあ決まっとるだろ。テレビが高くて買えなかったからだよ」
「いつのお話ですか」
「テレビが発売された頃だな。テレビが箱の中に入っておってな。観音開きの扉をあけて観るんじゃ」
「テレビが、ですか?」
「そうじゃ。初任給の何倍という値段でな。わしら庶民は新聞のテレビ欄を眺めるだけで我慢していたが、あれじゃ内容はわからんだろう。だから、テレビ雑誌が出たときには飛び上がって喜んだな」
「では、それ以来ずっと」
「ずっと買い続けておる。あるときふと、テレビ局は世界中にあることに気づいてな。調べたら、あるはあるは。いまはインターネットがあるから簡単だが、昔は定期購読ひとつ申し込むのも大変だった」
「最近はテレビで番組表が見られるから便利ですよね」
「そうなのか?」
「ご存じありませんか」
「わしゃあ、テレビを持っておらんからな」
「えっ」
「雑誌の定期購読代金が大変な上に、買った雑誌を保管するために家の増改築費もバカにならん。整理にも時間がかかる。金なしヒマなしで、いまだにテレビをよう買わんのじゃ」
「……」
「ところで、あんたは誰かね」
「明日テレビの境野と申します」
「ほう。これはテレビ番組の収録なのか」
「ご存じなかったんですか」
「うん。ところで、お願いがあるんじゃが」
「はい」
「ギャラはいらんから、テレビをくれんか。死ぬまでに一度テレビ番組というものを観てみたい」

(了)

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