ツービートも出てくる実名芸人小説「キャバレー」を読んだ

 グループホームに入っている母を週に一度見舞う。そのとき、かならず書店に寄る。母はもう認知症がかなり進んでいて活字を追うことは難しいのだが、手元になにかないと不安らしい。
 そんな母がひょいと手に取ったのが、ビートたけしの書き下ろし中編「キャバレー」だ。小説を読めた試しがないのでためらったが、あとで自分が読めばいいと思って購入した。案の定、母は読めなかったが、私にはとても面白かった。
 主人公は綾小路きみまろである。ヤクザとキャバレーの酔っ払い相手に漫談をする日々。多少面白いことを言っても客は聞く耳をもたない。過酷といっていい環境だ。客いじりとホステスいじりでなんとか受けをとることができるようになったとき、すでに笑いの中心は舞台からテレビに移っていた。テレビで売れていくツービートの背中をみつめるきみまろ。
 ビートたけしの冷静な筆がお笑いの過去と現在を描写していく。最後のほう、きみまろが売れていく時間をもう少し読みたいと思ったが、そこをあえて書かないのは作者のテレなのかもしれない。

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