なにやら空の上の方で工事をしているらしい。
　気の遠くなるような時間が経過して、直線はだんだんと地上に近づいてきた。
　完成してみれば、それは上がりと下りを併設したエスカレーターだった。
　やがて天上から痩せ細った男がむっつりとした表情で下ってきた。
「どこから来たんですか！」
　と、メディアは興奮してマイクを突きつけた。
「天国」と男は顎髭をなでながら答えた。「バイオテクノロジーの発達で生と死の境が曖昧になってきたから、天国と地上の境も曖昧でいいんじゃないかって、神様たちが大議論して、その結果がこれだよ」
「うわー、天国への階段ですか、これ。手塚治虫さん、いました？」
「は？」
「いや、天国に」
「天国の人口は地上よりずっと多いからね。わからんよ」
「そうかあ。あなたはなにをしに来たんですか」
「なに、死に別れた妻の顔を見にね」
「そんな気軽な理由でいいんですか」
「うん。二時間くらいだからね。あなたたちも見学してくればいいじゃない？」
　テレビを見た人たちがわれもわれもとエスカレーターに殺到した。
　茨の冠が似合いそうな男はうふふふと笑った。
「復活、かんりょー」
　そして、つぶやいた。
「見学するのはいいけど、降りてくる順番はなかなか回ってこないんだよねー」

（了）

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