走るかれら
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「うう、寒いな」
「寒い」
「どんどん寒くなる」
「歯の根が合わなくなってきた」
「おまえ、唇が真っ青だ」
「おまえもだ」
「走ろうか」
「なんで?」
「突っ立っているだけじゃ、無理だって」
「そうかなあ」
「そうだよ。これじゃ摩擦にならないよ」
「風よもっと吹け」
「モーゼかおまえは。こっちからぶつかっていってこその寒風摩擦だろ」
「そうか。寒風の野郎にぶつかるか」
「ああ、そうだ。全力でぶつかるんだ」
だああああ、と叫びながら、二人の裸体の男が平原を走り回った。
かれらが乾布摩擦という正しい漢字を知るのはいつのことだろう。
(了)
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