指令

 回覧板メールが届いた。
「たき火に関するお知らせ」である。
 21世紀の管理社会のどこにたき火をする人間がいるのか。いや、仮にいたとしても、そんな場所があるのか。
「場所:福田さんの家の横の路地奥」
 ……あるのか。
 出かけてみた。まさかこんなところに原っぱがまだ残っていたとは。
「器具:ドラム缶(下部に焚き口を備えること)」
 いまどき……あった。でかいドラム缶が。焚き火をしろということだな。
「工具:福田さんにレーザー鋸を借りること」
「深川さん」
 と後ろから声をかけられても、もう私は驚かなかった。レーザー鋸を手にした福田さんがいた。二人で焚き口を作った。
「可燃認可物:新聞紙、枯れ木、枯れ草、廃材、サツマイモ、死んだネズミ、生きているネズミ」
「うちの区の電子頭脳はネズミにトラウマあるようですな」
 と福田さんに話しかけると、後ろからにゅっと死んだネズミが出てきた。腰を抜かした私の目にネズミをぶら下げた妻の姿が映った。

(了)

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