電源ボタン

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「携帯の電源をお切りください」
 芝居の開演前に放送が流れ、観客席ではあっとかおっとか言いながら何人かが電源ボタンを押した。
「あれ?」
 という小声。
 しかも、複数。
 携帯の電源が落ちない代わりに、ロビーの照明が落ち、あるいはパソコンの電源が落ち、新幹線が止まり、掃除機が黙った。
 誰かがなにかの電源ボタンを押すたびに、それとはまったく関係のない場所の関係のないものの電源が落ちた。
 それがわかったときにはもう遅く、テレビの放送もラジオも止まっていたので、気づかない人々は無自覚にどんどん電源を落とし続け、地球はますます暗くなっていったのだった。
「不況ってこんな感じ?」
 とエコの神様が聞き、
「まあ、そうだね」
 と経済の神様が答えた。

(了)

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