試食隊

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「びすー。びすー」
 主人の情けない声を聞きつけて、電子ネズミが机の上に出現した。
「餅を焼いたんだけど、食わないか」
「ネズミは餅は食わないでチュー。やけどするでチュー」
「うう。夏風邪で鼻がバカになっていてさー」
「どうしたでチュー」
「醤油とソースを間違えた。バターソースをたっぷりつけて焼いた餅に海苔をまいてしまった。食えたもんじゃねえ」
 ぴんぽーん。
「ん。こんな時に」
 と呟いて、主人は玄関のほうに行った。
 びすはソース餅をちょっと囓ると、うげっと言った。
 玄関先からうわーっという主人の悲鳴が聞こえた。
「失礼しまーす。杉並区役所から来ましたー」
 三人の男がどかどかと入ってきた。どう見ても浮浪、いや、ホームレ、いや住所不定の人たちだ。
「試食隊でーす」
「誰が連絡したんだ。あ、びすー」
「チュー」
 あとも見ずに逃げる。
 三人は、焼いた餅を見つけると、一斉に手にとってがぶっと囓り、全員同時にうげーっと言った。
 そして、両手で大きく×を描くと、踊るように去っていった。

(了)

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