改造屋

 ぴんぽーん。
 またヘンな奴じゃなかろうかと思いながら扉を開ける。
 一度、扉を閉めた。
 なぜ白衣の男が昼日向に民家を訪ねてくるのか。
 ぴんぽーん。
「なんですか?」
 意を決して聞いてみる。
「改造屋でございます」
「マッドサイエンティストじゃないの」
「……」
 図星だったみたいだ。
「いちおう科学者でございますが、昨今の不況を鑑みまして、個人営業もさせていただいております」
「で、なにを売るの?」
「記憶の改造の御用はございませんか」
「ありません」
「ええっ」
 白衣の男は、大仰にのけぞった。
「あなたさまにはいい記憶しかないと!」
「いや、そんなことはないけどね。いやな記憶を消してくれるってこと?」
「そうですそうです」
「そんなことして、ほとんどの記憶が消えちゃったらどうするの」
「あー」
 そこまでは考えてなかったらしい。
「また来ます」
 すごすごと引き返していった。
 ぴんぽーん。
「またあなたですか」
「え、わたくし、以前にもこちらに伺いましたでしょうか?」
 以前の営業は嫌な記憶として消去してしまったらしい。
「ええ、ええ、それはもう何度も」
 と大嘘をついてみたが、改造屋には検証のしようもないらしく、
「それはまことにどうも申し訳ありませんでした」
 と大人しく帰っていった。
 やっぱり、よくても悪くても記憶は残しておいたほうがいい。

(了)

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