とりつぎ

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 五年ぶりに携帯電話を買い換えて設定機能が増えていることに驚いた。
 見たこともない機能「とりつぎ」。
 音設定の中にある。
 呼び出し音が鳴り、通話ボタンを押したあと、すぐに通話モードに入らずに、いったん「とりつぎ」を行うものらしい。カタログには秘書機能とうたわれている。
 音源のリストを眺めると、こんな具合だ。
「主人は、ただいま、多忙です。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ただいま、会議中です。割り込みますか?」
「主人は、ただいま、電波の届かない地域におります。特殊な方法で取り次ぎますか?」
「主人は、ただいま、不機嫌です。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ただいま、絶不調です。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ただいま、熟睡しております。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ただいま、外国人に道を尋ねられて困っております。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ただいま、オヤジ狩りに遭遇しております。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ただいま、と言っております。帰宅したようです」
「主人は、ただいま、求職中です。すぐに応答します。電話を切らないでください」
「主人は、ただいま、金策中です。お金を貸していただけますか?」
「主人と話すには担保および連帯保証人が必要です。お取り次ぎしますか?」
「主人は、日本語が不自由です。お取り次ぎしますか?」
「主人は、声が小さいです。お取り次ぎしますか?」
「主人は、無口です。お取り次ぎしますか?」
「主人は、ミュージカルが好きです。お取り次ぎしますか?」
「主人は、大阪人と和歌山人のハーフです。お取り次ぎしますか?」
「主人は、農民のために戦っています。仲間に加わりますか?」
「主人は、ヤハウェイです。契約しますか?」
「主人は、無人くんです。契約しますか?」

 正直に「主人は、会話中にキレることがあります。お取り次ぎしますか?」を選んでおいた。
 通話ボタンを押しても、たいてい、通話は切れている。人と話すのはあまり好きではないので、満足しているが、携帯電話の機能としてはいかがなものか。
 
(了)

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