馬鹿起業

 喰えなくなって、
「家族解散」
 と叫んだ三ヶ月後、拘置所で家族と出会うのはかなり情けない。
 息子に聞いた。
「なんでつかまった」
「ばりこてで食い逃げした」
「なさけねー」
「とうちゃんは?」
「コンビニで万引き」
「さいてー」
「かーちゃんはどうしてる?」
「秋葉原の路上でDVD売って捕まった」
「あー」
 釈放されても喰うあてがないので、何年か刑務所で過ごし、家具ばかり作っていた。
「家族集合っ」
 ふたたび集まってみると、妻も息子も家具ばかり作っていたという。河原に作業場を作り、偽物のイタリア家具を作って販売したところ、そこそこ売れた。
 家具製造会社を起業することにした。

「万引きー」
「ばかやろう。社長って呼べつってるだろうが。この食い逃げ野郎が」
「専務だろ」
「食い逃げ専務」
「なんだよ」
「返事するなばか。常務はどこいった」
「秋葉原」
「だから路上で家具を売るなって言ってるのに」
「あんたー、売れたよー」
「うそ。なにが売れたんだ」
「イタリア製の桐のタンス。中国人が買っていった」
「むちゃくちゃだな」
「ベンツのマークをつけといたのがよかったみたい」
「ベンツはイタリアじゃないぞ」
「そうだっけ」
「万引き社長」
「ただの社長でいい」
「新作ができた」
「今度はなんだ」
「浄水器付きトイレ」
「それ、なんの役に立つんだ」
「そこまで考えてなかった」
「ま、いいか。ベンツのマークをつけときゃ売れるだろ」
「路上でトイレを売るのはまずいんじゃないかい」
「おまえがいうなおまえが」

(了)

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