インタービューイ

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 冬のファッションアイコンといえば、なんといっても抗ウイルスマスクにゴーグルだろう。
 ビシッとファッションアイコンに身を固め(服は洗いすぎてボロボロになったユニクロだが)渋谷の街を歩いていると、街頭インタビューを受けた。
「あなたにとって、苦手なキーワードを教えてください」
「なんでも」
「……えっ、もう終わりですか」
「はい。なんでもが私にとって最悪のキーワードです」
「なんでものどこが悪いのですか」
「不景気ですから、なんでも仕事を受けてしまって、とんでもないことになっています」
「なにか法に触れるような仕事とか」
「自分にできそうもない仕事や、量を受けてしまって後悔しているということです」
「なるほど。ほかには」
「パソコンにiTunesをインストールしたんです」
「はい」
「そこで、気がつきました」
「なにに?」
「私、音楽をあまり聴かない人間だということに」
「ふつう、入れる前に気づきませんか」
「うかつにも気づきませんでしたね」
「で、どこでなんでもとつながるのでしょう」
「あまりCDを持っていないものですから、妻の部屋に行きまして、そこら辺にあるCDを片っ端からインポートしまして」
「CDがあるだけよかったですね」
「それがそうでもなくて。私、またまた気づきました」
「今度はなにを」
「私が音楽を聴かないのは、お金がないからではなくて、いや、お金もないけど、趣味がすごく狭いからだってことに。妻とはぜんぜん趣味が合わない」
「具体的にいうと?」
「言っていいんですか」
「いいですよ」
「気がつくと、SMAPのCDがたくさん入っていてですね」
「お嫌いですか?」
「大っ嫌いになりました。聴かなきゃ、知らずに済んだのに」
 そのとたん、取り巻いていた通行人から一斉に生卵や腐ったトマトが雨あられと投げつけられた。渋谷の人たちってふだんからこういうものを持ち歩いているのだろうか?
「だから、なんでもは、よくない。なにもないほうがいい、ということにようやく気づいたのです。SMAPは全部ゴミ箱に叩き込んでやりました」
 いちおう最後まで喋ったのだが、私もインタビュアーも卵やトマトに打ち倒されて路上でのたうっていたので、最後の言葉は伝わっていないとおもう。
 どうでもいいところで、ゴーグルとマスクが役に立ってしまった。

(了)

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