たばこ税

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 打ち合わせ場所に指定された喫茶店は禁煙だった。
 すこし早めについたオレは、近所のコンビニで千円札を出し、ため息をついた。釣り銭はない。するすると値上がりして、いまでは一箱千円だ。
 一時間程度はかかる打ち合わせの前に吸い溜めしておこうと、税金のかたまりを紫煙にしていると、滅びの美学という言葉が脳裏をよぎる。
 ビルとビルの隙間に隠れて吸っていたのだが、めざとい小学生の集団に見つかってしまった。
「こいつたばこ吸ってるぞー」
「吸ってるぞー」
「税金よこせー」
 オレはかっとして、火をつけたままのたばこを投げつけてやった。
 小学生のひとりは器用によけると、白手袋をして、たばこを消し、ビニール袋に入れて、うれしそうに「ポイ捨てゲットー」と叫んだ。
「おっさん、不法投棄だぞ。税金払えよなー」
「うるさい、そのたばこにはな、国税のほか、地方税や、市町村税までかかってんだ。税金を投げていただいて、ありがたく思え。この上、なにを払えっていうんだ」
「田丸小学校税、それに上里税だ」
「なんだ上里って」
「オレの名前だ」
「田中税も払えー」
「前田克典税も払えー」
 小学生がわいわい叫び始めた。
 こいつらー。
「全員燃やして吸ったろかー」
 とわめくと、わっと蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
 まったく。国会でたばこ税法が改悪され、喫煙者を発見したら任意の税金をかけていいということになってから、むちゃくちゃである。
 オレが喫茶店でライター相手に打ち合わせをしていると、小学生に連れられた警官隊が乱入してきた。
「脅迫罪、暴行未遂で逮捕する。手を挙げろ」
 いやがらせにハイライトの箱をもったまま手を挙げてやったら、不健康物陳列罪で撃たれてしまった。
 いいやもう。
 こんな世の中で生きていたくない。

(了)

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