大型新人

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 途中採用ですごいやつを採ったらしいという噂を聞きつけ、大文字長治郎は見物に出かけた。
「たしかにこりゃ凄いや」
 空手着姿の巨大な男が、廊下の小さな椅子に座って、与えられたノートパソコンを持てあましている。長治郎は壁の花システムの導入者として、ひとこと言っておかなくてはと思った。
「こんにちは。経営戦略企画室の大文字です」
「微々木輪模素です」
「びび?」
「びびもくわもすです」
「びびもくわもす、びびもくわもす。難しいねえ。名刺くれる?」
「まだ出来てません」
「あ、そうか。そこ狭そうだね」
「そのうち慣れると思います」
「うちの会社ってフリーアドレス制になっているんだけど、席をとるのは早いモン勝ちだからね。新人だから廊下とか、途中入社だから廊下ってことはないから」
「そうでしたか」
 翌日から微々木輪模素は、一時間早く出社して、一番いい席に座るようになった。窓を背にして、フロア全体を見渡せる席。暗黙の了解で社長の席になっていたのだが、そんなことはまったく気にしないらしい。
 こりゃいいヤツが入ってきたと、長治郎は喜んだ。
 これで社長も壁の花の一員だ。
「シャチョーも壁の花ですかー」
 と長治郎がうれしそうに声をかけると、
「大物なのか、ただのバカなのか、ぜんぜんわからん」
 と憮然としている。長治郎は部屋をのぞき込んでみた。よほどヒマなのか、微々木輪模素はひとりで空手の型を始めていた。
 (了)

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