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毒キノコ

「区内の公園で毒キノコの発生が確認されております。食されないようにご注意をお願いします」
 というメールが役所から届いたのと、息子が「大量ーっ」と叫び、キノコのいっぱい入ったビニール袋をぶら下げ踊りながら帰宅したのがほぼ同時だった。
「おまえ、まさか食ってないだろうな」
「生では食わないよ。ほら、料理して料理」
「バカ野郎。それ、公園で採ってきただろ」
「よくわかるね」
「なんで誰にもとられず、そんなにたくさん残っていたかわかるか」
「んー。昼間っから公園に来るヒマな人はいないから?」
「それが毒キノコだからだよっ」
「げっ」
 放り出すな。
「食べるとどうなるんでしょう」
 と、いちおう、役所に問い合わせてみる。
「踊り出すそうです」
「あわわ」
「そのほかには」
「泡を吹いて倒れる人もいるそうです」
 倒れた。さては生で囓ったな。
「死ぬ危険は?」
「ありません。ところで、息子さんは倒れましたか?」
「えっ?」
「じつは息子さんが公園でキノコ狩りをしている姿が目撃されています。公共物を持ち帰るのはよくありません」
「それはそうだが、いまはそんなことを言っている場合ではないのでは」
「そのキノコ、毒性は強くなく、味はおいしいそうです。ただ、暗示にかかりやすくなります」
「なるほど」
 倒れている息子を蹴飛ばした。
「おい。起きろ。今晩はキノコ鍋だ」
「えっ、いま毒キノコだって」
「暗示にかかりやすくなるだけだってさ」
 私も妻も息子も大嘘つきで、他人を騙すのが大好きである。その夜のキノコ鍋は、たいへんなことになってしまった。

(了)

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