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【ショートショート】怖い食卓

 暗い、細い路地。あたりを夕闇が包み、闇となるのももうすぐだ。
「いひひ、今日はここにするか」
 小さな、誰にも聞こえないような声で呟く幽霊。
 なかなか成仏できない低級霊にとって、人を驚かせることだけが唯一の楽しみだ。
 窓明かりが消えているのを確認してから、ボロアパートのドアをすーっと通り抜けた。
 畳の上に座る。
「いひひ、いつ帰ってくるかな」
 乱暴にドアを引き開けて、四十過ぎの男が帰宅した。
 いきなり、幽霊の正座している居間を素通りし、キッチンで食パンを焼く。
「こんな時間にパン?」
 幽霊は首を傾げる。が、独り者にとっては、料理など面倒くさくてやっていられるものではない。
 バターとジャムを塗って、コーヒーを入れて、居間に戻ってくる。
 テレビを付ける。
「いひひ、いつ気づくかな」
 幽霊は食事中の男にぴたりと寄り添い、わくわくと胸をふるわせていた。
 テレビは、えんえんとバラエティ番組を流し続ける。
 男はアホみたいに大口を開いて笑った。そして、
「おもろいなあ、こいつ。なあ」
 と言い、真横を向いて、幽霊の目を見た。
 気づいてたのか!
「ぎゃああ」
 幽霊は悲鳴を上げて逃げ出した。
「もう帰るんかい」
 寂しげに呟き、男はまたテレビに視線を戻した。

(了)

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