予告編

 それは突然、脳裏に浮かんで来た。
 自分の生涯の予告編だ。
 石の階段に座ってぼんやり道を眺めているはじめての記憶から始まって、小学校の教室から曇空を眺めている光景とか、グラウンドに寝て雲に向かってだんだん嫌になってくるなあと呟いている光景、同級生から生きてて楽しいことあるのかと責められる光景、はじめて自分の書いた文字が活字になった時の光景、瀬戸内海の孤島に閉じ込められる光景、結婚式で花嫁が指輪をなくす光景、広告学校に通って銀座にも淋しい地帯があるんだなあとビルの壁を見上げている光景。光景は延々と続き、なんですでに見た覚えのある光景ばかり並んでいるのだろうと不思議に思ったが、よく考えると、予告編は本編が完成してから作るものだ。
 がんっと後頭部に衝撃を感じたのとシンクロするように、予告編は急速に近づいてくる地面を写しており、終末が近いことがわかる。
 映像が途絶えた。
 ジ・エンド。

(了)

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