代打ち

 麻雀組の侍頭が庭で平伏している。
 殿様があらわれた。
「おもてをあげい」
「ははー」
「江戸表から連絡が来た。将軍様の肝いりで新年の大麻雀会が開催されるとのことじゃ。そちに代打ちを命じる」
「と、とんでもないことで。拙者、所詮、井の中の蛙。とても殿の代理は勤まりませぬ」
「ふむ。致し方ない。代打ちの者を募集するか。して、麻雀とはいかなるものか。説明してみよ」
「手元に十三枚の牌を配り、取って捨てを繰り返しながら役を作りまする。はやく役を完成させたものが点数を得るのでございます」
「どのような者がふさわしいのか」
「頭の回転が速うないといけませぬ。また、牌にさわった瞬間に、指の感触で牌を判別しなければなりませぬ。これを盲牌と申しまする」
「難しいのか」
「御意」
 殿はしばらく考えを巡らせていたが、やがて、
「座頭市を探せ」
 と命じた。盲人ならば、いやでも指先の感覚は繊細になるであろうという決めつけだ。
 部下たちは、さっそく辻辻に札を立て、座頭市を捜した。
「殿、大変でございます。座頭市が四人もあらわれてしまいました」
「なんと、それは面白い。すぐに庭に集めよ」
 殿は躍り上がって喜んだ。
「おまえたち、座頭市と申すか」
「へい」
「へい」
「ほー」
「へい」
「ひとり変なやつが混じっておるが、まあいい。ここにいる者のうち、三人は偽物である。まずその決着をつけてもらおうか」
 かちっかちっかちっかちっ。
 四人は同時に仕込み杖を引き寄せた。
「違う違う。勝負はこれで行え」
 侍たちが庭に麻雀台を持ち込んできた。
 当時、電動卓は存在しないから、台の下には掻き混ぜ専門、積み込み専門の麻雀侍が隠れている。
 四人は困惑した。
「盲牌をしてみよ」
「東」
「南」
「西」
「北」
「おいおい、どこへ行くのじゃ」
 四人の自称座頭市はそれぞれバラバラの方向に逃げ去ってしまった。
 次の日、辻に新しい札が立った。
「麻雀の得意な座頭市を求む」

(了)

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