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絶望のあとに

「また駅前のビルに空室ができてたわよ」
「どこ?」
「ファミリーマートが入ってた場所」
「ああ、うちの近所だけで四軒もあったもんなあ。あたりまえだよ」
「次、どんなテナントが入るのかしら」
「パン屋だったらいいけど、コンビニのスペースってでかいから無理だよな」
「書店でもいいけど」
「ああ、二年前に潰れたっきりだ。居酒屋でもいいかな。このへん、意外と安く飲める店がないから」
「あなたー。テナントが決まったって」
 地元情報網は早い。
「なに?」
「では三択です。不動産屋、美容室、整骨院」
「げえ。その中に正解があるの?」
「あります」
「全部やだ」
「せっかく聞いてきたんだから言わせてよ」
「聞いたって認めない。それ、全部もうあるじゃないか。しかもたくさん」
「じゃあ、このいやないやな三つのうち、一番イヤなのは」
「不動産屋」
「ぴんぽーん。正解です」
「これ以上不動産屋を作ってどうすんだ」
「社長ー。まわりの店、不動産屋ばっかりじゃないですか。なにもこんなとこに店構えなくても」
「バカ野郎。たくさんあるから、変わったことをやったら目立つんだろが。一軒だけならただのバカだ」
「そういうものですか」
「わかったらもっとパンを焼け」
 焼きたてのパンも売る不動産屋「ベーカリー不動産」は地元で大評判の人気店となった。

(了)

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