しつけ?

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 アマゾンに「クリスマスのフロスト」を注文したら、夏目漱石の「明暗」が届いた。
 驚いたが、仕組みを聞くとあり得ない話でもない。
 アマゾンの倉庫では、入庫した商品を順番に棚に並べていく。
 「見せる」書店と「発送する」アマゾンでは商品の管理方法が違う。書店では客が本を探してレジに持って行く。書店の本質は書棚なのである。
 アマゾンでは注文がくると在庫システムから位置を指示された発送人が棚から商品を取り出して包装する。棚は単なる置き場であって、分類もなにもない。隣の商品との関連性は無だ。うっかり隣の本を手に取ったら、無関係な本が発送されてしまう(本だったらまだマシだ)。
 気を取り直して発注した筒井康隆の「創作の極意と掟」のかわりにデカルトの「方法序説」が届いたときには、なにかしらの悪意を感じた。たしかに私は古典をなにも読んでいないが、それは強制されるようなものだろうか。
 さらに町田康の「告白」を頼むと、吉田兼好の「徒然草」が来た。
 ここまでくると、電子焚書である。
 文部科学省の名前が教養省に改められたのは、それからまもなくであった。われわれは強要省と呼んでいるが。

(了)

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