見出し画像

【SS】朝の光景

 尻が冷たい。
 最悪の状況だ。
 もらしたか、濡れたか。
 自分とは限らない。猫がおしっこしていったのかもしれん。
 それでも最悪には違いないが。またマットレスの買い換えか。
 あ。
 水便。そういうことも、考えられる。昨日はなにを食っただろうか。
 というか、どういう状況でベッドに入ったのだっけ。
 泥酔か。泥酔だったら水便あるよなあ。
 思い出せない。
 現実を直視するのが恐ろしく、目を開けることもできない。
 なにか、こう、もうちょっと妥当な状況というのはないものだろうか。
 尻のところだけ布団がはぐれてる。いやいや、それでこんな気持ち悪くはならん。
 パンツを履いてない? そんな状況は、心当たりがない。
 尻。尻。尻。尻に冷えピタが貼ってある。
 なんでやねん。
 やっぱりもらしたか。おれはもうそんな歳なのか。

「かおりー、弁当の用意できたから、パパ、起こしてきて」
「起きへーん」
「どないしてもか」
「どないしても」
「パンツにこんにゃくでもつっこんでやり」
「ママー」
「なに」
「つっこんだけどあかん」

 彼女は夫の寝室を見に行った。
「し、しり、しり」
 とうめいている夫の見苦しい姿があった。
 こんなしても起きられないくらい疲れているのか。
 日曜日は家族で動物園へ行こうと約束してたんやけどなあ。
 まあ、ええか。パパは休ませておいてやろ。

「しり、しり、おれのしり……」

(了)

ここから先は

2字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。