気の長い話

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「警部っ、怪盗のらおかぴから予告状が届きました」
「捨てろ」
「は?」
「そいつが約束の時間を守ったことはない」
「わざわざ予告するのにですか」
「そうだ。希代の方向音痴でな。かつて一度も犯行現場に辿り着けたことがない」
「どうしてそんなこと知っているんです?」
「捕まえたことがあるからだよ」
「警部殿が?」
「そうだ。その時は銀座の宝石店を襲うと予告が来てな。オレはアホらしいから田端銀座の焼き肉屋でビールを飲んでいた。すると、そこにヤツがあらわれて、宝石を出せって怒鳴ったんだよ。肉とキムチしかねえっつうんだよ」
「迷うにもほどがあるというか」
「そういうやつなんだよ」
「でも、今回はさすがに迷わないんじゃないですか」
「なぜだ」
「皇居だからです」
「なにを盗むんだ」
「天皇陛下だそうで」
「今度は誘拐か。でもなあ。皇居って広いだろ。あんなところ、やつが迷わずにいられるはずがない」
「本人も自覚はあるようです」
「どういうことだ」
「期限は平成30年になっていますので」
「つきあい切れんな」

(了)

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