派遣総理

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 政府の非正規雇用解消運動は失敗に終わった。
 財界はそんなことは最初からしたくないのだからいくら笛を吹いても誰も踊らない。
 いたるところ派遣社員だらけで、正規雇用の社員はかえって肩身が狭く、偽装派遣を装う始末だ。
 次に打ち出された政策は、非正規雇用促進運動である。みんな派遣なら、それはそれで公平だろうという三方一両損のような考え方だ。
 まず最初に官僚が全員解雇され、派遣会社を通じて、再就職することになった。派遣官僚である。
 やけくそになった官僚は「政治家だけが例外のわけはない」と言い出した。
「われわれは選挙で選ばれた選良だ。余人をもって代え難い」
 と政治家は言い張ったが、二世政治家、三世政治家ばかりの現状では説得力をもたない。自民党は解体されて派遣自民党となり、民主党もまた派遣民主党となった。
 大臣なんて職種はもともと、内閣総理大臣からの依頼で政権党から派遣されてきた人員であり、失言するとすぐに切り捨てられてしまう。長く続けても一政権限り。派遣そのものだ。
 最後までもめたのは総理も派遣でいいのか、ということだ。
 いちおうとはいえ最高権力者なのだから、これはもう人ではないだろうと、「日本最高の人工知能(笑)」と呼ばれる杉並区の行政コンピュータにお鉢が回ってきた。
「いやでチュー。それだけは絶対。いやいや。お断りでチュー」
 突然、びす激高し始めたので驚いた。こんな姿は見たことがない。机の上に立って、小さな腕を振り回している。
「ねずみにはわからないでチュー。なにをいうでチュー。え。ご主人さまと一緒でもいい?」
 おい、びす。なんの話をしているんだ。
「ほんとに? 仕方ないでチュー。わかったでチュー」
 な、どうしたんだよ。
「総理大臣に任命されたでチュー。いっしょに総理をしてほしいでチュー」
 いーやーっ。

(了)

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