微妙な人

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「あ」
 陸橋を歩いているあの人は、微々木輪模素氏ではあるまいか。
「どうしたの」
 と、いっしょに散歩していた妻が聞いてきた。
「いや、なんでも」
 私は誤魔化そうとした。
「あのひと?」
 遠くからでも異様な雰囲気を発しているらしい。
「うん」
「知ってる人?」
「知ってるというかなんというか」
「誰よ」
 うーん。
「びびもくという人なんだけど」
「びびもく?」
「微妙の微がふたつに木と書いてびびもく」
「ペンネーム?」
「かなあ。本名かもしれないし」
「なにしてる人?」
 ああ、それを一番聞かれたくない。
「空手家?」
「私に聞かないでよ」
「だよなあ」
「知り合い?」
「記者会見で見ただけなんだけど」
「あやふやねえ。寝てたんじゃないの」
「たぶんね」
 世の中には説明しにくい人がいるものである。

(了)

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