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【SS】渋谷圏外地


 毎年のように地下鉄の新しい路線が開通し、東京の地下はいまどうなっているのかと疑問に思う。渋谷や新宿のようなターミナルには乗り換え駅が集中するから、とんでもないことになる。
「いまどのくらい?」
 と鉄成分の多い人に聞いたら、
「さあ、地下25階くらいかなあ」
 と首をひねっている。よく乗り換える気になるものだ。

 乗り換えなければならなくなってしまった。取材の掛け持ちだからしかたない。乗換案内を調べたところ、どうしても銀座線から頭蓋骨線に乗り換えなければ行けないことが判明した。
 頭蓋骨線こそ、地下25階にある路線なのだ。

 地下鉄のエスカレーターはどうしてこうも長いのだろう。大江戸線でさえそう思う。地獄へ下っているような気持ちになる。そんな長いエスカレーターをいくつもいくつも乗り換える。
 もう何回折れ曲がったのか、よくわからない。
 地下十数階くらいだろうか。階数表示がないのは不親切だ。富士見線と言われても、どんな線だかかわからない。
 豪遊線、ショートカット線などと聞いたこともない路線のホームを経由して、どんどん深みに吸い込まれていく。
 ふと気づくと、路線表示が消えていた。
 路線もないのになぜエスカレーターがあるのだ。
 とにかく一番下なんだからと思い、私はずっと下り続けた。

 ようやく頭蓋骨線にたどり着いた。
 渡されたのはつるはしだった。
 いまさら驚きはしない。
 ほか三名の作業員とともに、トロッコに乗りこんだ。
「三キロ西までは行けるから」
 そこからあとは掘っていけということか。

 先方に遅刻の連絡を入れたいが、もちろん、電波の圏外だ。渋谷のど真ん中にいるというのに。

(了)

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