出トチ
玄関横の小さな花壇にヒキガエルが住んでいるのだが、一言も鳴かない無口な性格なので、近所の人は誰も気づいていない。
夜中に時折、黙って月を見上げている姿を見かける。
ある夜、真昼のような光が差して、なにごとかと玄関の扉を開けたら、月よりの使者がいた。
「おじいさま、おばあさま、お元気で」
と言い残して、カエルは空に去った。
次の晩、いかにも王子然とした若者が家の前をウロウロしていたので、
「どうしたんですか」
と声をかけた。
「このあたりで醜悪なヒキガエルを見ませんでしたか」
「べつに醜悪でもなかったけど、ヒキガエルならそこにいたよ。でも、昨日、月に帰ってしまった」
「わあ」
若者は頭を抱えた。
ほんとは、若者がキスをして、お姫様の姿に戻ってから月に帰る段取りだったらしい。
「出トチだねえ」
というと、
「ぼくもうクビかも」
王子は悄然と頭を垂れてどこかへ去った。
数分後、たいへんな勢いで白馬があらわれた。
(途中省略)
「出トチだよ」
白馬は悄然と(以下略)
(了)
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