歓迎

「ていねいなご紹介ありがとうございました。私が、新しい校長の一条実篤です。みなさん、よろしくお願いします」
 おなかたっぷりすぎの初老の男が挨拶を始めた。
 学生たちは、たりーなという表情で、ぼんやりと新校長を眺めている。
 やがて、生徒会長の大矢が、
「いいっすかー」
 と手を挙げた。
「なんだね」
「先生って、源氏ですか平氏ですかー」
 校長はなぜかむっとした。
「私は藤原氏だよ」
 ざわざわざわ。
 学校中にざわめきが走った。
「おい、貴族だよ貴族」
「藤原ってあれだよな、中臣鎌足の子孫だろ」
「かたまりって誰だよ」
「かまたりだよっ」
「おれたちの敵か味方か」
「どっちでもないんじゃないか」
「うちに藤原系のクラブなんてあったっけ」
「あ、ジャグ部」
「なんだそれ」
「大道芸。昼休みに中庭に集まっているやつらだよ」
「ああ……蹴鞠遺伝子な」
「あはははは」
「笑ってる場合かよ。あいつら、来年は部室もらえるんじゃねえの」
「ジャグ部のくせによー」
「ではここで、新校長の歓迎にジャグリング部が大道芸をみせてくれるそうです」
 と体育教師の後藤が言った。
「くそ。もうすり寄ってやがる」
「許せん」
「弓道部を呼べ。平家の実力を見せてやる」
 スパスパスパ。
 ジャグリングボールが、次々と射貫かれた。
 ほぼ同時にサッカー部渾身のゴール球が、校長の額に炸裂した。
「ふんっ」
 と、生徒全員が鼻息あらく講堂を出て行き、あとには失神した藤原系だけが残った。
 マイナーの悲哀。
 
(了)

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