杉並天皇

 パソコンの画面に向かっておもわず「えっ」と問い直してしまった。
「杉並天皇募集中 あなたも陛下になってみませんか」
 こんなことをいうのは、杉並区の回覧メールに決まっている。
 杉並区の天皇って山田区長じゃないの? と呟いてみると、びすがふるふると首を振る。
「天皇陛下は象徴でチュー。象徴に政治はできないでチュー」
 それもそうか。でもなんで杉並区に天皇が必要なの?
「日本とはなにかと考えたら、最後は天皇制に行き着くでチュー。それなら杉並区も同じではないかという議論になったでチュー」
 いや、べつにいらないと思うけど。
「それでは、平成天皇があまりにもかわいそうでチュー。ひとりの人間が日本を背負うなんて無理でチュー。電子ネズミでも無理でチュー」
 まあね。
「これも一種の地方分権でチュ。地方分権は杉並区から!」
 いつになくびすは興奮気味だ。
 あのさ、急に下卑た話になるけどさ、天皇家って江戸城に住んでるし、生活費も国費から出るじゃない? 杉並天皇の場合はどうなの。
「大丈夫でチュー。住居は、蚕糸の森公園の東屋に寝る権利と寝袋が保証されるでチュー。食事は一日一回杉並区役所から炊き出しがあるでチュ」
 炊き出しって?
「乾パンとか雑炊とか」
 たしかに雨を防げて食事にありつければ死にはしないだろうが……
「生活レベルは低いかもしれないけど、区内の学校の入学式や卒業式にはもれなく来賓として参加。公共の儀式にもゲストして呼ばれるでチュー。崇高な名誉職として区民の崇拝を集めること間違いなし!」
 微妙だ。微妙すぎる。
 これ、親子代々引き継いでいくんだよね?
「もちろんでチュー」
 息子とよく相談してみるわ。 

(了)

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