心配外来

「藤田と申します。よろしくお願いします」
「どうもご丁寧に。武田です。ところで、どうしました?」
「富士山がいつ噴火するかと思うと、もう心配で心配で夜も眠れません」
「富士山は遠いから噴火しても、とりあえず藤田さんは大丈夫ですよ」
「先生。1707年の宝永大噴火をご存じですか。100キロも離れた江戸市中に火山灰が降り注いで大変なことになったんですよ」
「そうですか。じゃあ、富士山はいつか噴火するとしましょう。でもそれがいつかはわかりませんね」
「はい」
「わからないことを心配しても仕方ないし、第一ずっと夜眠れないと人間は死んでしまいます。中途半端に心配するより思い切り心配してみましょう」
「え」
「寝なくていいです。でも、人間である以上いつか寝てしまいすから、そのときは藤田さんが心配を乗り越えたということです」
「……噴火も心配なんですが、それより心配なのが東京直下型の大地震です。これはもう、明日来てもおかしくないじゃありませんか。地震が怖くてご飯も食べられないんです」
「失礼ですが、そのわりにはふっくらとされているような」
「ご飯が喉を通らないのでパンを食べてます」
「じゃあ、そのままいきましょう。パン食でもぜんぜん問題ありませんよ」
「地震はどうなるんですか」
「地震はどうにもなりませんねえ。もしお金に余裕があるようでしたら、富士山から遠い、地震も起きそうにない土地に引っ越してみてはいかがですか」
「ダンナの給料が上がらなくて貯金はぜんぜんないんです」
「あなたはいま働いていますか」
「いいえ」
「では、こうしましょう。地震の心配のない土地で仕事を探して藤田さんが引っ越し費用を稼ぐ。これならなんの心配もないし、地震を怖がる必要もなくなります」
「それ、いいですね!」
「はい、では次の人」

(了)

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