猫の算数

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 三引く一は猫でもわかる算数である。
 なぜ猫でもわかるかというと、たとえば、三人家族が三匹の猫を飼っているとしよう。この場合、猫はそれぞれ自分が甘えてもいい担当者を決める。人間が決めるのではなく、猫が決めるのだ。
 決める過程で、さまざまな葛藤や力関係が露呈するが、算数とは無関係なので省略する。
 この時点での公式は、「人A=猫A」だ。一対一の対応である。
 ここから長期出張なり入院なり留学なりで、人がひとり減る。仮に人Bを消そう。
 猫は公式が崩壊したことを知る。
 人ふたりに対して猫は三匹もいるのだ。
 担当者のいなくなった猫は、「ま、いいか」とは思わない。強引に「人A=猫B」の公式を通そうとする。びっくりするのは猫Aだ。
 ちょっと待て。
「人A=猫A」である。おまえはなにゆえ、人Aの膝の上でゴロゴロ言っておるのか。
 人Aも人Aである。きさま猫の区別もつかんのか。
 ここで人Cが外出したりすると大変だ。
 膝1つに対して、猫の足は12本だ。だんだん計算が崩壊してきたが、これは書いている人間Fの頭が悪い。
 猫Bは力があるので人Aの膝を占領し、猫Aは負けてなるものかとジャンプして腕2本をゲット。身の軽い猫Cはジャンプして頭にしがみつく。
 爪を立てたままずり落ちて、人Aの頭は血だらけだ。これはかなわんと喫茶店に逃げ出すと、家の中は無人になる。
 猫はパニックに陥るかというと、そうはならない。落ち着いて三匹で毛繕いを始めたりする。
 人がいなくなると、人=猫の公式は成り立たなくなるから、この時点で猫の頭から人の数は一度クリアされてしまうのである。
 ということを喫茶店で考えて帰宅した人Aは、猫たちに対して「おまえら、電卓みたいなやつだな」と言った。
 猫は公式が復活したので、またわっと人Aに襲いかかった。

(了)

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