現場に来る女たち

「科捜研の大上です」
「おお、来たか淳子ちゃん」
 石田警部は、がっと大上の肩を掴んだ。
「これがガイシャ、河田恵子の上、こっちが下だ」
 河田恵子は座椅子に座ったまま、首を切り落とされていた。
 大上はケースから大きなルーペを取り出し、切断面を子細に観察してから言った。
「他殺です」
「わかっているよ」
 石田警部は両手を広げた。
「詳しいことがわかったら教えてくれ」
「仮想研の大西です」
「あんた誰だ」
「大西です。専門は仮定です。もし死因が他殺ならば、どこかに犯人がいるでしょう」
「そりゃいるだろう」
「もしその犯人が男なら、不倫関係の可能性があります」
「まあな」
「もしその犯人が女なら、やはり不倫関係の可能性があります」
「なんだそりゃ」
「端的にいってレズです。夫は隠れ蓑の可能性があります」
「たしかに蓑虫っぽい顔の亭主だった。調べてみよう」
「家相研の太田です」
「科捜研はもう来てるよ」
「うちは犯罪を家相学的に分析します。間取りを教えてください」
「好きに見ればいいじゃないか」
「どちらが北かわかりません」
「コンパスくらい持って歩けっ」
「下層研の下田です」
「今度はなんだ」
「お金を貸してください」
「いきなりだな」
「帰りの電車賃がありません」
「パトカーで送ってやる。それよりなにかわかることはないのか」
「ガイシャは髪を染めています。自己流ではなく美容室を使っていますね。ガイシャはあきらかに下層階級ではありません」
「言われなくても家をみればわかるよ。邪魔しないで待ってろ」
「おなかが空きました」
「知らん」
「仮装研の凛子です」
「誰だ」
「綾波レイです」
「帰れ」

(了)

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