監視下

「あなたを一週間、監視下におきます」
 と言われたのが、三日前。
 黒づくめの男三人に冷たい声で言われ、びびった。
 警察か、公安か、それとも未知の組織か? 身分説明は一切なし。
 言い残して、そのまま去っていっただけだ。
 それ以来、生活になにか変化があったかと言われると、なにもないのだが、人の視線がやたら気になる。車が止まっていれば、なかにやつらがいそうな気がする。電車の中では背中の視線が気になる。メールを書いていても、リアルタイムに盗み読みされている恐怖にかられる。
 たった三日で眠れなくなり、私は駅前の心療内科をたずねた。
「睡眠薬の処方をお願いしたいのですが」
「ぜんぜん眠れませんか」
「いえ、数時間は……ただ眠りが浅いです。猫が音をたてるだけで目が覚めちゃいますから。はっ。あの猫!」
「猫がどうかしましたか」
「い、いえ」
 強めの睡眠導入剤を出してもらい、夜は昏倒することができた。夢も見ない。
 なんとか一週間がたった。
 私はまたあの三人の男たちがあらわれ、今回のこの不条理な監視について説明してくれるものだとばかり思っていたのだが、なにもない。
 なにもだ。
 どこかでなにかが決定され、私の将来が方向付けられたのかもしれない。あるいは問題が見つかり、監視が延長されたのかもしれない。
 どちらにしろ、あの「監視中」という一言で私の日常は失われた。
 永遠に、元には戻れない。
 猫のなかに誰か隠れているような気がする。
 助けてくれ。

(了)

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