脱官僚社会

 不況の原因は官僚だという説がある。
 省庁から天下った官僚のために年間12兆円の予算がかかる。
 税収が50兆円を切ろうという時代に12兆円。
 官僚をおだてまくってその頭脳を電子的に変換し、人工知能を作るプロジェクトが密かに進められた。
「というわけで、杉並区を超電子頭脳特区に指定したいと思うのだが、どうだ」
 大物政治家の山荘で、区長は難しい顔をした。
「ほんとにコンピュータに行政ができますか」
「やってみないとわからんね。だから特区だ」
「なぜうちの区が」
「キミの所、今度区役所を建て直すんだろ」
「はい」
「議会場なんかいらないから、そこに超電子頭脳を設置してくれ。費用は国持ちにする」
「え、役人だけじゃなくて、区会議員もなくしてしまうんですか」
「この電子頭脳には、政治家の頭脳も入っておる。わしの頭脳も入っておるから心配するな」
 区長は心配だよと思ったが、口には出せない。
 結局、押し切られる形で、杉並区に超電子頭脳が導入された。
 驚いたことに、役人を全部クビにしても、議会を突然解散しても、区民は誰一人としてそのことを気にしなかった。
 窓口はどうするんだ、と思ったが、コンピュータはマウスに小型電子頭脳を埋め込み、窓口ネズミを作ってしまった。
 最初はとまどった区民も、書類の受付がふつうにできるとわかると、「役人より愛想がいい」ということで、すぐに慣れてしまった。
「で、わたしはなにをすればいいんだ?」
 豪華な区長室で、やることのなくなった区長がぽつねんと呟くと、机の上にすくっと一匹の電子ネズミが立ち上がり、
「エサやりをお願いしたいでチュー」
 と言った。
「ついでに水も」
 区長とびすのはじめての出会いである。

(了)

お気に召しましたら、スキ、投げ銭をよろしくお願いします。

続きをみるには

残り 78字

¥ 100

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。