永久ラーメン

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 街頭アンケートをとっていた若いやつが、就職に成功した。いまは渋谷の小さな雑居ビルの中にある会社に勤めている。
「そこの若いの、先に食ってこいや」
 いい加減名前を覚えてくださいよと思いつつ、合田は渋谷の街頭に融け込む。街を流してランチ探し。
「永久ラーメン」という看板が目に止まった。
 ほんとにあったんだ。
 思わずのれんをくぐっていた。
「ネギラーメン、ひとつ」
「へいっ」
 ネギ山盛りのラーメンが来た。美味。
「お客さん、替え玉いくか」
「いくいく。いくら」
「一玉百円ね」
「じゃ、お願い。ところで、どうして永久ラーメンなんです」
「そこ見るね」
 継ぎ足しのタレが置かれていた。
「替え玉、タレ、替え玉、タレ。どんどん行く。終わりがないね」
「はは。それで永久ラーメン」
「永久でしょ」
「でもそんなにたくさん食べれないよ」
「大丈夫ね。消化薬たくさん入っているから」
 ぶっとラーメンを口から吹き出してしまった。
「あのね、ずっと食べることができるとしてさ、その間は仕事できないよね。そうするとお金が稼げない。替え玉の注文もできなくなる」
「お金はいいの。大学病院の治験テストのバイトがあるからね」
「なんの治験?」
「どのくらい眠らずにいられるか、とか。米軍が不眠の軍隊を研究しているでしょ。ああいうのね」
 ……。
「このラーメン食べると元気でるね。目、ギラギラするね。眠らない。大丈夫」
「ぜんぜん大丈夫じゃない」
 と言いつつ、箸が止まらない。なぜ止められないのだろう。
 ふと、カウンターを見ると、とてつもなく長い。反対側は霞んでいる。
 昆虫のように、背を丸めた人々が黙々とラーメンをすする光景。
 なぜ、店に入った時にこの異様さに気づかなかったのか。
 合田は、なんとか店の外へ出て、いつか出会ったおじさんにいまここにある永久について教えてあげたいと思った。

(了)

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