本は生きている

 息子が大量の宿題やら課題図書やら自由研究やらを手にして夏休みに突入した。
 遊びほうけている。
 しかし、やつなりに勝算はあるらしく、プリントだけは毎日消化して早めにキリをつけたようだ。自由研究はじいちゃんに丸投げ(バレるぞ、それは)。
 課題図書は、最後に追い詰められてから頑張るらしい。気持ちはわかる。先生の気に入るような感想を書かなきゃと思いながら読みたくもない本を読むのはほんとに気鬱である。
「とーちゃん!」
 夏休みもいよいよ押し詰まった頃、息子が蒼白な顔色をして駆け込んできた。
「本が本が」
「なんだよ」
「成長している」
「なに言ってるんだ」
 息子は広辞苑のような本を手にしている。課題図書にしてはちょっと太いかもしれない。
「これ、一番薄いから選んだんだよっ」
「いったいなにをした」
「なんにも。ほっておいたら、こんなになっちゃった」
 本のほうで気を遣ったのかもしれない。読んでもらえないのはわかりにくいせいかと説明を増やしたり、エンタメ性が足りないかとストリーリー性を追加したり、各章の終わり引きを強調したりとかしているうちに、だんだん太くなっていったのではないか。
「そんなバカな」
「とかいってるうちにも、ほら、だんだん太くなってくぞ。とりあえず読み始めてみろ」
「くそー」
 とうめきながら、息子は机の上に本を開き、読み始めた。
「あ、なんだこれ」
「どうした」
「面白い」
「いったいどんな本を買ったんだ?」
「バナナの育て方」
「バナナの育て方が面白いのか。そりゃそうとう熟成してるなー」

(了)

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