パニックボタン

「総理。ご決断を」
 総理はごくっとつばを飲んだ。
「ほんとにこのボタンを押していいのかね」
「日本には核はありません。そのため、最終手段としてパニックボタンを用意したのではありませんか。いま使わなくてどうするんですか」
「わっ」
「地震か?」
「ぐらっと来たような気がしたけど、速報、出ないなあ。あ」
 テレビ画面を覗き込んでいた同僚が、のけぞった。
「どうした?」
「か、株価が」
 いよいよ日経平均が1000円を割るというので、どこの局も東証からの緊急生中継をしていたのだが、一気に10000円を回復している。
「いつの間に?」
「為替レートも対ドル100円に戻っているし」
「おかしいなあ。金融崩壊はどこへ行ったんだ」
「総理っ。成功です。国民はみんな騙されていますっ」
「よーし。これでしばらくは内閣はもつな」
「なにをのんきなことを言っているんですか。この間に逃げましょう」
「やはりそうか」
「偽情報を流すだけで経済が回復するわけないでしょう」
 しかし、経済はほんとに回復してしまったのだった。
 この事件は、「日本国内閣消失事件」として、歴史の謎のひとつとされている。

(了)

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