忍者の末裔

 N出版社はNビルをまるごと借りている。つまり、各フロアにはぎっしりと編集部が入っているわけであり、ライターがふらふら歩いているとかならず知り合いにぶつかる。
 吉井さんと遅めの昼食にカレーを食いに行くことになり、エレベーターで一階に下りた。
 エレベーターホールで、藤田さんと出会う。
「お、なおちゃん。どこ行くの」
「吉井さんとカレー食いに」
「おいおい、さっきおれとうどん食ったばかりじゃん」
「まあ、遅い昼飯ってことで」
「よく食うなあ」
「おい、なおちゃん」
「あ、渋井さん」
「どこ行くの」
「吉井さんとアジールに」
「あんたさっきオレと、ピザ食ったじゃないか」
「いやー、喫茶店のピザはつまみですよ」
「けっこうでかかったけどなあ」
「あ、なおちゃん」
「あ、なおちゃん」
 エレベーターホールが大混雑になってしまった。
「まあ、みなさん、落ち着いて、ここはカレーでも食べにいきませんか。ねえ、吉井さん」
「食いすぎなんだよ!」
 みんなが一斉につっこんだ。
「大食いチャンピオンかおまえは」
「じつは、忍者の家系なんです」
「忍者と大食いは関係ないだろ」
「一時的に胃液を増やせます」
「どうやって?」
「こう、ぐっと押し出す感じで」
「うぇっ」
「そうそう」
 全員が真似を始めた。
「うぇっ」
「うぇっ」
「うぇっ」

(了)

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