壁の花
(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)
「来週は恒例のコスト削減会議だからな」
恒例と言われてもなあ。大文字長治郎は困って、経営書を読んでみた。
コスト削減のためには固定経費を削れと当たり前のことしか書いてない。
人件費削減、不動産コスト削減。もうやっているよなあ。
お、固定した席をなくすフリーアドレス。これは、うちはまだやってないな。よし。これにしよう。
「というわけで、固定席をなくして、現在使用している2フロアを1フロアにまとめればいいと思うのであります」
「君なあ、フリーアドレスを採用している企業が少ないのはなぜかちょっとは考えてみろ。事務と偉い人は結局、固定席を確保するから、一番作業の必要な者が席をなくす羽目になるぞ」
「机は半分にしても、椅子は減らさないということでいいんじゃないですか」
「君はなにを言ってるんだ」
長治郎は、「デパートのレストラン街を思い浮かべてください」と言った。「人気の店の前には順番待ちのための椅子がずらっと並べられているでしょう。あれです。ノートパソコンとネット環境さえあれば仕事ができるのであれば、廊下に椅子を並べておけばいいじゃないですか」
長治郎の案は採用され、今日も廊下には人が鈴なり。彼らは壁の花と呼ばれている。
「あはは。ブチョー、また壁の花ですかー」
「うるさいよ君は。客先に行ってくる!」
「不思議なことにこっちのほうが仕事が進むんだよなあ」
という声もある。仕事が進まないとわざわざ電車に乗ったり、喫茶店にこもりにいく長治郎は「そりゃそうだろう」と呟くのだった。彼は廊下でしか仕事をしない。
(了)
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