組み立て親方

「うおーっ」
 とか、
「逆だったかー」
 とか、
「ねじ穴がー」
 とか、いろいろ絶叫したあと、ご主人は、本棚の組み立てを諦めたらしい。180センチといえば、電子ネズミにとっては、東京タワーのようなもの。手伝いようがなく、びすはご主人の半狂乱の様子をベッドの上からじっと見ているほかなかった。
 なんとか手伝いはできないかと考え、検索した結果。
 ぴんぽーん。
 ご主人は「なにか頼んだっけー」と言いながら、宅配便を受け取った。
「自動組立機「親方くん」でチュー」
「びすが買ってくれたのか。ありがとうな」
 ここで親方くんを組み立てるのに失敗するというありがちなパターンはさすがになかった。親方くんは組み立てる必要もないくらい小さな円錐形ロボットだった。
「なにか組み立てるのけ」
「本棚を」
「説明書はあるけ」
「あるよ」
「床に広げてみそ」
 言葉は変だが、親方はテキパキと指示を与える。
 じーっ、と音をたてて、説明書の全ページをスキャンした。それから、レーザー光線を照射しながら家中を移動した。家の図面を作ったらしい。
「よっしゃ。そろそろ始めるべか。材料を持ってきてみそ」
「え」
「はよせんか」
「ここでないとダメかな」
「ここしか無理。寝室、スペースなさすぎ」
 ご主人は必死で荷物を運びおろした。
「ほら、そこで休まない。横板を置く」
「はい」
「どうしてそんな置き方するか。立てる立てる」
「あ、そうか」
「天板と床板を合わせる。溝の位置がちがーう」
「ああー」
「不器用だなおまえ。ま、これも修行だ」
 親方は指示専門のロボットだった。どうりで安いはずだ。
 ご主人は大汗をかき、それでもなんとか本棚は完成した。
「んー、お疲れさん。じゃ、オレに充電して今日はあがりだ。明日は、なにを作るんだ?」
「いや、とりあえずはこれで終わりですが」
「バカモン。じゃあ、オレが決める。明日はつり棚だ。ちゃんと板と鎖を用意しとけよ」
 びすはこそこそとその場を逃げ出した。

(了)

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