家ねずみ

「びすー」
 と呼ぶと、意外なところから電子ネズミが顔を出す。
 今日はクーラーの上から飛び降りてきた。
「おまえは忙しいな」
「パトロールでチュー」
「どこを?」
「天井とか床下でチュー。ネズミにとっては、家は人間よりもずっと広く認識されているでチュー」
「ほう。うちの土台は大丈夫だったか? シロアリとか、いないか」
「大丈夫でチュー。柱も腐っていないでチュー」
 なかなか役に立つなと思っていると、
「もともと電子ネズミは家屋の状態を調査するために開発されたでチュー」
 と言われた。
「ボロボロだったらどうすんだ?」
「まずご主人様に報告するでチュー」
「相手にされないだろ」
「ネズミが喋ったと叫んで交番に駆け込む人がほとんどでチュー」
「すると、次は」
「役所に報告するでチュー」
「役所に相談しても仕方ないだろ」
 部屋に沈黙が落ちた。
「なにこの沈黙。役所がなにかするわけ?」
「土地が狭くて、家が古く、密集していて、道も狭いと災害発生時に大火事になる可能性が高いでチュー」
「ふむ」
「役所としてはそういう地域は、再開発するなり、防災対策の緑道を作るなりしたいでチュー」
「でも、住んでる人がいるんだから無理だろ」
「不良住宅撲滅シロアリ隊を開発中でチュー」
「げっ」
「家が潰れてしまえば、もうその土地には建築許可が下りないから、区の思惑通りになるでチュー」
「そんな恐ろしいことを考えているのかあのバカコンピュータは」
「この話はここだけのことにしてほしいでチュー」
「家をつぶされる人が出るんだぞ」
「ネットに書いたら、この家が一番最初に潰れるでチュー」
「なにも聞かなかったことにしよう」

(了)

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