ろくでもない
ドアのチャイムが鳴った。
たいていろくなことがないが、それでも出ないわけにはいかない。
初老の男がなんの前置きもなしに、
「新聞をとってくれ」
と言った。新聞名すら言わない。
「いやだよ。どうせとっても読まないし」
「オレも読まない」
「じゃあ、気持ちはわかるだろ」
といいながら、私はポケットを気にした。もしこの男がダブリン社のロボットだったら、びすが撃退してくれるはずだが、しーんとしている。
男は説得モードに入った。
「気持ちはわかる。だから、こうしよう。契約してくれたら配達はしない」
「あんたバカか」
「どうせ洗剤か神宮球場のチケットにしか興味ないんだろ? な、多めに置いていくから、洗剤を買うと思って、月3000円、頼む」
「アムウェイじゃあるまいし」
「よくわかったな。なんなら鍋もつけるよ」
ダブリン社よりもたちが悪かった。
洗剤も鍋もフライパンもいらないことを丁寧に伝え、お引き取り願った。
(了)
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