漢字検定

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 人気の検定試験のひとつに漢字能力検定、いわゆる漢検がある。
 一級から十級まであり、難関とされるのは一級と準一級だ。
 会場である小学校の体育館から、白髪じりのおじさんがよろめきながら出てきたかと思うと、グラウンドの中央でバタっと倒れた。
 マイクを持った者、カメラを担いだ者など、猛々しい集団がわっと倒れた男を取り囲み、絶叫するように問いかけた。
「どうしたんですか」
「大丈夫ですか」
「総理っ」
「ううう」
 男は弱々しくうめいた。
「ダメだ、むつかしすぎる」
「いったい何級を受験されたんですか」
「じゅ、十級」
 あたりに沈黙が広がった。
 十級といえば、対象は小学1年生修了程度である。問われるのは、小学校第1学年までの学習漢字であった。
 ぽつぽつと人が去り、男はひとり取り残された。
 空からぽつぽつと冷たいものが降ってきた。
「誰か。誰かいないか。教えてくれ。筆順ってなんだ」
「おじさん、ふでじゅんじゃないよ」
 とランドセルを背負った通りすがりの小学生が言った。

(了)

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