ペット

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 人畜無害な私に言われるのもどうかと思うが、私よりも数等人畜無害な友人が、暴挙に出た。
 暴挙といっても、じわじわと始まり、すでに二十年くらいは経過している。彼が始めたのは地上げであった。
 隣近所で遺産相続があるたびに土地を買い上げていったのである。都心の一等地というわけではない。ビルの需要もなさそうだし、「あの人、なんのために土地を買っているだか」と近隣の人も首を傾げていた。
 ただひたすら自宅の敷地が増えていくだけなのである。
 屋敷を建てるといった具合でもない。中央にぽつんと、貧しいといっていい佇まいの荒ら屋があるだけ。
 ひさしぶりに会ったときに、
「こんなに土地ばっかり買っちゃって。屋敷でも建てるの」
 と聞いたら、黄色い歯を剥き出して、
「そんな金はね」
 と言った。
「金がねえなら土地も買うなよ」
「土地はなあ。ねえとかわいそうだからなあ」
「誰が」
「おらのペットだよ。見るか」
 怖いけど気になる。
「噛みついたりしないか」
「しねえしねえ」
 彼はすたすたと小さな家の中に入っていく。私もあとに続いた。
 地下室があった。
 扉を開けると、そこは広大なプールだ。最初は海かと思った。
 そして、潮を吹く動物がいたのである。
「なー、かっわいいだろー」
「可愛いかどうかしらんが、おまえが土地が狭いとかわいそうだという理由はわかったよ」
 彼がほしかったのは海とつながる広々とした地下なのだった。

(了)

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