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「おおお」と声を出して驚いた。階段をのぼって、南阿佐ヶ谷駅から地上に出た瞬間である。
 そこにあったはずの、無意味に豪奢な杉並区役所が消滅し、でっかいラブホテルのようなものが建っていた。いったいいつの間に……
「せめてお城といってほしいでチュー」
 ポケットからびすの声が聞こえてきた。
「せめて、ということは、ほんとはなんなんだ?」
「王宮でチュー」
「……ということは王様がいる?」
「もちろんでチュー」
「どういうことか話してみなさい」
 王宮の一階ロビーにある喫茶店で私は言った。
「王室には山田区長がいるでチュー」
「いつから王様になった」
「なってないでチュー」
「山田区長といえば、今度は、国会議員に打って出るそうだな」
「そうなのでチュー。選挙の時に元杉並区長では弱いので、杉並王ということにしたいでチュー」
「……」
「でも、日本から独立して王国を作るには時間が足りないので、とりあえず形だけ作ってみたでチュー。王宮に住んで、王冠をかぶっていれば、区長でも王様に見えるでチュー」
「そのバカな入れ知恵は、あのろくでもないコンピュータがしたのか」
「しっ。ここでそれを言ったらいけないでチュー」
「そうだったな」
 私たちは声をひそめた。
「で、山田さんが当選したらどうなるんだ」
「がんばって総理大臣になってもらうでチュー」
「それで?」
「日本国あらため杉並国にして、初代の王様となるでチュー」
「天皇陛下の立場は?」
「天皇は象徴だからあのままでいいのでチュー。江戸城はあげるでチュー」
「杉並王国になったらなにかいいことはあるのか」
「国民全員にもれなく電子ネズミがついてくるでチュー」

(了)

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