痛いご主人

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 ぎっくり。
 本棚の下から二段目に本を戻そうとして腰をやってしまった。
 あいたたたた。
「たたたた、大変でチュー。大変でチュー」
 びすがあわててあたりを駆け回る。でもあいにくびすの小さな体ではなにもできない。
「たのむ。救急車を呼んでくれ」
「すぐ呼ぶでチュー」
 入院するほどでもないので腰を固める処置を受け、私がタクシーで自宅に戻ってくると、見知らぬロボットがいた。
 びすが喋りまくる。
「か、介護の人をお願いしたでチュー。介護ロボットしかあいてないっていうのでそれでもいいって言ったでチュー。間違って分類ロボットが来ちゃったでチュー」
「ありがとう。ま、なんでも、いないより助かる」
「さっそくご主人さまを運ぶでチュー」
「ご主人さま?」
 腕というより鉄骨アームに近いものを伸ばしたロボットは乱暴に私を持ち上げ、自宅に運び込んだ。その間にびすが非接触カード機能でタクシー代を精算してくれる。
「ご主人。ご主人。ご主人はどんなご主人か」
「痛い痛い。腰をやったばかりなんだからもっとていねいに扱ってくれ」
「ご主人は生き物。ご主人は痛い」
 分類ロボットは考えていたが、ぺっとコードを吐き出した。
 私は分類されたらしく、ベッドに放り込まれた。
「痛いご主人、200045。寝る、休む、柔らかい、ベッド。クスリは飲むか」
「カバンに入ってる」
「飲むんだな。痛いご主人、クスリを飲む。三日に一回か」
「一日に三回だっ」
「たくさん飲むんだな」
「毎食後だ」
「そんなに食う気か」
「うるさい」
「痛いご主人、たくさん食べる、クスリも飲む。短気。2000459326。ぺっ」
 また分類されてしまった。
 そこへびすが戻ってきた。
「助けてくれ。こいつ、無礼だ」
「融通がきかなくて申し訳ないでチュー。分類基準を変更するでチュー」
「これ、痛い人。食べる寝るうんこする。歌わない。詩的言語を持たない。骨董価値なし。評価額ゼロ」
「いったいどんなモードにしたんだ」
「文化芸術モードでチュー」
「ほかにどんなモードがあるんだ」
「ゴミ分別、整理整頓、弱肉強食、調査研究、与信判定……」
「悪いが帰ってもらおう」

(了)

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