首都不在

 遷都の噂かしましいある日、ごごごごと凄まじい音を立てて、地面が浮かび上がった。
 皇居や国会議事堂を乗せて千代田区が行く。新しい首都を求めて。オレたちがいなきゃ、首都機能なんて果たせっこないといわんばかりに。
 もちろん、首都には東大も欠かせない。文京区も飛ぶ。
 盛り場だって欠かせない。歌舞伎町を乗せた新宿区も飛ぶ。
 おまえはついてくんなと言われても、足立区も飛ぶ。日本経済を支えているのは零細工場なのだ。見捨てられてたまるか。
 ひねくれものの杉並区はちょっと迷っていたが、それでも他の区が次々と飛び立っていくのを見て、居ても立ってもいられなくなった。
「飛ぶかな?」
「飛ぶでチュー」
 ごごごごご。
 あまりにも規模が広大すぎて、空を飛んでいるという気がしない。
 二十三区は、新しい都を求めて日本国中を彷徨ったが、新首都のほうも古い利権に来てほしくなどない。必死で地下に隠れ、邪馬台国のごとく姿を消した。
 漂流に漂流を重ねた二十三区は、いつしか離ればなれになり、辺境の地に着地した。
 いろいろ困ったことはあったが、なんといっても一番困ったのは山手線である。必死になって最寄りのJRに接続したが、全長五千キロの周回路線になってしまった。 
「で、結局、遷都はどこになったのでチュー?」
「さあ。まだ逃げ回ってるんじゃないか」

(了)

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