靴マッサージ

 丸ノ内線新宿駅西口改札を出たあたりに靴磨きのスタンドができた。
 修理ならともかく、磨くのにお金を出すのはなーと思って通り過ぎていたのだが、ある日、しげしげと眺めると「靴磨き」のほかに「マッサージ」という看板もぶら下がっていた。
 どういうことだ。
「頼みます」
 というと、背もたれのある椅子を出してくれて、細長い布できゅっきゅっと靴を磨き始めた。まだ少年といってもいいような年頃の男の子だが、一人前に引き締まった顔立ちをしている。
 きゅっきゅっ、と単調な音を聞いているうちに、だんだん眠たくなってきた。
「寝てもいいんですよ」
 ふうと意識が途絶え、
「終わりました」
 という声で気がついた。
 30分ほど経過していた。
 靴がピカピカに輝いているのはもちろん、身体が軽い。
 靴磨きとマッサージは両立できるのかー。じーんと感動していると、男の子に、
「はじめてですか?」
 と聞かれた。
「うん」
「慣れないうちは揉み返しが来るかもしれないけど、気にしないでね」
 その夜、足がどかんと重くなり、がちがちに固まったが、翌日はふつうの状態に戻っていた。
 ぴかぴかの靴を履くと、飛ぶように歩くことができた。

(了)

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