中継

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 妻といっしょにテレビを観ていた。
 オリンピック、女子バトミントンのダブルスだ。
「オグシオはかわいいねえ」
「強いねえ」
「チュー」
 デンマーク相手にどんどん得点を重ねていくオグシオ。バトミントンは、どちらかのチームが11点に達した時点でブレイクが入る。
 1分の休憩のあと、後半に入ったとたん、オグシオが失速した。よくわからないミスを重ね、デンマークチームに11連続得点を許してしまった。デンマークチームは逆転劇を演じて、第1セットを先取。
「あいたー」
「どうしちゃったのー」
「チュー」
 第2セットが始まった。
「あれ?」
「なに」
「なんか……、オグシオの衣装が透けてない?」
「胸がちょっとヤバいかも」
「なんだろこれ。視聴者サービス?」
「そんなわけないでしょ。罰ゲーム?」
「チュー(あんたらどっちもおかしい)」
 第2セットもブレイクのあとで雰囲気が悪くなったが、ずるずる崩れることなく、オグシオが21–14で勝った。すると、今度はデンマークチームの衣装が透け始める。
「これは演出かなあ」
「バカじゃないの」
「でもはっきり透けてるよ」
「そんなところばかり見るんじゃないの」
 だんだん調子を上げてきたオグシオはリードを保ったまま、ブレイクに入る。
「チュー!」
「おいおい。デンマーク、ますますヤバイぞ。パンツが見えてきた」
「あれはインナースパッツっていうの! いまどきパンツっていうのあなたぐらいじゃないの」
「悪かったな」
 しかし、ほんとの驚きは、オグシオが第3セットをとった瞬間にあらわれた。
「ぽんっ」
 と不思議な音がしたかと思うと、デンマークチームの二人が蒸発するように画面から消えてしまったのである。
「……」
「……」
「……」
 私たちは静かにテレビを消した。オリンピックは怖いので、もう見ない。
(了)

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