日本支部
「おい、バットマンスーツが壊れた。かわりをくれっ」
ここはバットマン日本支部。
ブルース八二号が駆け込んできた。
警察機構に代わり、杉並区全域の治安を請け負っているからきわめて忙しい。
「悪い、八二号、いまみんな出払っている。スーツの予備もない」
「銃を持った強盗がコンビニに立て籠もっている。子供があぶないんだ。なんかあるだろ」
「あ、さわるな。それはまだ実験段階だし、バットマンスーツでもない」
「うるさいっ」
八二号は、キャットマンスーツα3を着て走り去った。
「いいぞ、この鋭い鉄の爪。あの野郎を切り裂いてやる」
「こら、こうもり野郎。はやく金と車を用意しろ。さもないと」
「さもないと、なんだ」
「子供を撃つ」
「撃ってみにゃ」
「なんだと」
「撃てないくせにいきがるんじゃないにゃ」
「ば、馬鹿野郎。お、おれはなあ」
「おまえのことはどうでもいいにゃ。そこの棚に煮干しがある。煮干しをくれたらおまえを殺さない」
「う、うるさいっ。取り引きするのはこっちだ」
「にゃおー」
キャットマンはビルの壁面を駆け上り、ジャンプし、コンビニの窓を割ってなかに飛び込んだ。
銃声が響きわたった。ただし、一発。
犯人は、顔に五条の深い傷を刻まれていた。血が噴き出す。
人質たちは我先に逃げ出した。
ぽりぽりと煮干しを囓りながら、キャットマンが出てきた。
「眠いにゃ」
そう。キャットマンは異常な集中力を発揮するかわり、一日に二十時間の睡眠を必要とする。自分勝手で事件を解決する気持ちもない。
八二号は支部に帰り着くなり、深い眠りに落ちた。
(了)
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