猫と地震と三人の家族

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 いつか来る来ると思っていても、いざ来るとやはり驚くのが地震である。しかも、マグニチュード6.5、東京直下型というすごいのが来た。震源地は、東京湾の下あたりである。フジテレビは速報を出す前に倒壊したが、そんなことはどうでもいい。
 ぐらっと来た瞬間に、人は大事なものを守ろうと本能的に抱きつくらしい。
 妻は薄型液晶テレビを守ろうとして吹っ飛ばされた。
 私はMacBook Proを胸に抱いて宙を舞った。
 猫を抱きしめた息子は、一番人間らしい振る舞いだったが、やはり宙を舞った。
 三人とも命に別状はなかったので、逃げ出すことにした。家の中は惨憺たる有様で、いつ潰れるかわからない。一人が猫一匹をリュックに入れると、あとは水と缶詰くらいしか入れる余裕がなかった。
 西へ西へ。
 関西までたどり着けば、実家に身を寄せることができる。
 品川を越えたあたりで陽が落ち、めっきり暗くなったので、野宿することにした。
「缶詰用意」
 とオレは言って、リュックから缶詰を取り出した。猫缶だった。
 妻も息子も猫缶を持ってきていた。
「あー。こりゃ飲まず食わずだな。仕方ない。とりあえず、猫にエサをやろう」
「とうちゃん、缶切りは?」
「え、おまえたち持ってないのか」
「ない」
「ない」
 怒った猫に顔をひっかかれた。

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