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【SS】めでたしめでたし

「こうしてかぐや姫は月へ旅立ったのでした。めでたし」
「こうしてはいやー」
「だって、もう何回もお話しているから知ってるでしょう」
「こうして、きらいー」
「わかったわかった。じゃあ、かぐや姫のお話、ちゃんとするね」
「うん」
「いろいろあって、かぐや姫は月へ旅立ったのでした。めでたし」
「いやー、いろいろ、いやー」
「もう里奈ちゃんたら。お母さん、眠いのよー」
「ちゃんとお話して」
「昔々、おじいさんとおばあさんが光輝く竹から赤ん坊を取り出しました。赤ん坊はものすごい美人に育ちましたが、結婚をいやがりました。そして、月へ帰ってしまいましたとさ。めでたし」
「めでたくなーい」
「しょうがないでしょ」
「おめでたくして」
「美人に育ったかぐや姫は男などよりどりみどりで、時の帝さえ虜にしてしまいました。めでたしめでたし」
「……でも、かぐや姫は結婚したくないんでしょ」
「そうだけど」
「おめでたくして」
「地球にはいい男が見つからなかったので、かぐや姫は月に帰ることにしました。めでたしめでたし」
「月にはいい男いるの?」
「わからないけど」
「おじいさんとおばあさんはどうしたの」
「かぐや姫いかないでー、と毎日泣き暮らしておりました」
「いやー、じいちゃんもばあちゃんも連れていってあげてー」
「かぐや姫にはビッグウェーブが来ていましたが、地球の男に興味のない姫は、恩人のじいちゃんとばあちゃんを連れて、月に旅立っていきました。めでたしめでたし」
「でも、月には空気がないんだよ」
「かぐや姫はもともと月の人だから大丈夫なの」
「おじいさんとおばあさんはどうなるの」
「窒息して死んでしまいました」
「いやー、おめでたくなーい」
「窒息してはいけないので、かぐや姫はおじいさんとおばあさんにモビルスーツを作ってあげました」
「もびるすーつってなに」
「宇宙空間でも平気な戦闘服だよ。おじいちゃんとおばあちゃんは還暦を迎えるところでしたので、ふたりのモビルスーツは真っ赤に染められていました。ふたりは赤い流星と呼ばれ、大活躍しました。めでたしめでたし」
「どんな活躍をしたの」
「悪い宇宙人をやっつけたのよ」
「そのときかぐや姫は?」
「月でいい男をナンパしていました。めでたしめでたし」
「おめでたい?」
「あのね、かぐや姫は軍隊の志願兵募集の仕事をしていたの。かぐや姫の美貌に男はわらわら寄ってきたから、すぐにトップセールスを誇るようになったの」
「うーん」
 しばらく考えて、里奈ちゃんは、
「めでたしめでたし」
 と言った。すぐに深い眠りに落ちた。

(了)

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